221Bのプロダクションデザイン

美術デザイナーの矢内京子は、外観のロケ地として採用された文京区の洋館・平野邸(1922年建築・登録有形文化財)を軸にして221Bのセットデザインを描き、“西洋の中にある和”“アンティークと和の融合”をテーマに内観を構築していった。例えば、ベースは洋間だが壁紙には京都から唐紙を取り寄せて貼り付け、欄間や床の間を設え、照明器具は和のアンティークもの、窓ガラスも現在は製造していないアンティークのガラスを木枠にはめた。森監督は「ロンドンっぽいものに寄せるのではなく、日本らしさを取り入れた221Bを作ることで、新しいシャーロック・ホームズにしたかった」とその意図を語る。「東京駅のKITTEにある博物館(インターメディアテク)のようなイメージ」「色を使わない」「広いワンフロアではなく柱や段差で複雑な構造にしてほしい」といった監督からのリクエストを受け、矢内は何十回もセットプランを描き直し、椅子1つに至るまで何回も入れ替えた。その結果、カメラを向ける角度によってさまざまな異なる表情を見せる221Bが誕生した。天才シャーロックの頭の中を具現化した、221Bのセットに足を踏み入れた竹内や貫地谷は、書物や実験器具、蝶や昆虫の標本など、膨大な要素が一見乱雑に見えるがある調和をもって共存する小宇宙に感銘し、演技のインスピレーションを授かったという。特に俳優陣を喜ばせたのは、シャーロックがデスクに貼り付けた数式や切り抜きなどのメモ。矢内は「シャーロックは完全なデジタル系ではなくて、アナログ系の要素もあるので、メモを貼りました。上の方のメモは固定で、下の方は話ごとに入れ替えています。すべてが新しくならないように、何度も貼り直しました」。こうやって美術・装飾チームは、ミス・シャーロックの世界観を細部に渡るまで創造した。